空


15日、未明、月と火星が最接近という。見られるかどうかわからない。
札幌は午前3時ごろもうはや空はブルーモーメントになる頃、今日は3月振りの休みとなってようやく心穏やかな1日になる。本来の心になった。
床屋にいったり、寝たり、起きたり、コーヒーを飲んだり長い一日を過ごし、辻井君のベートーベンを聴きながら、これを書いている。「かなわぬ人への恋心をひそめ作ったといわれる月光を聴きながら」

寒い日が毎日体中を襲い、外は一面白い世界を作り、僕の勉強はさっぱり進まず、何も見えない未来の受験を思いながら、あれはクリスマスの夜に女性が玄関口に立って「勉強は進んでいますか」と言って帰り際に僕に白い毛糸に赤い線の入った手袋をプレゼントにおいて消えた。そうそう、右手と左手のサイズが少し同じでなくごめんなさい、といった。

彼女は比較的裕福な家の女性だったから、難なく東京の大学に進み、僕は貧しい家の生まれ故、銭のかからない大学しかなかった。両手に今でもくっきり残る火傷の後は眠気覚ましのお灸の後だ。ポッカレモンと紅茶とお灸は受験の必須だった。僕は貧しさを勉強の苦しさから逃れるために嫌悪した。

コロナが世界中を網羅し僕は残された人生を故郷への郷愁と、そして、新しい日々を生き抜こうと思った。静かな札幌の夜は進む。